森谷淳二
デンマークが誇る独特の成人教育システム、フォルケホイスコーレには、様々な種類の学校が有ることはご存じだと思います。私は、音楽に興味があったので、音楽を教えてくれる学校を選んで2001年1月〜6月まで留学しました。
私が選んだのは、Tuftlundという小さな町の音楽と演劇のフォルケホイスコーレ。約半年間、実に数々のおもしろい経験をすることができました。
学校のあるTuftlundは南ユランにある人口3000人の町。デンマーク最古の都市リーベから20kmの南東に位置し、周囲は牧場しかない長閑な田舎町です。 そんな環境の中で、この学校では朝から晩まで音楽三昧の生活を体験できます。音楽といってもジャンルは様々ですがここでは主にロック、ジャズつまりバンド音楽が中心です。スタジオは4つあり、レコーディングも可能、生徒の部屋と同じ鍵で24時間自由に出入りできるといういうすばらしい環境でした。ピアノはグランドピアノが2台、スタンドピアノ4台で計6台あり、毎晩誰かしら練習するので夜遅くまでピアノの音色が響いていました。
学校ではいろんなカリキュラムや行事がありましたが、その中で私がもっともユニークでエキサンティングだと感じたのが、「ライブツアー」。春コースの終わりに毎年行われ、デンマーク各地をバスで巡って主にバブでライブ演奏する、というものです。観客を前にして演奏するわけですから、少しだけプロミュージシャンになった気分に浸れます。 旅をするコースは毎年異なるのですが、私が参加したライブツアーは、デンマーク第二の都市Aahusからスタートし、ユラン半島の北を巡る演奏旅行でした。
北ユランのSabyいう港町を拠点にして、この1週間の間にデンマークの学校やレストラン、パブなどで5回ライブして練習した成果を披露しました。演奏する曲はみんなで話し合い、レディオヘッド、ビョーク、ベックなどからデンマークの音楽の様々なジャンルの曲のコピーして演奏しました。楽しい毎日でした。
しかしツアーは楽しいばかりの旅行ではありませんでした。一週間でいろんな所をバス一台で巡るので、夜中12時に演奏がはねて、その直後、何時間もかけて移動しなければならないこともあありました。しかもバスの中は演奏機材が半分スペースを奪います。ドラムやら大きいスピーカーやらを1台のバスに詰め込んで移動するのです。人はその隙間に座り個人の荷物は自分で抱えるという程窮屈な状態。これは、けっこうきつかった。
音楽機材の中には、体格のいいデンマーク人でも2人がかりでないと持てない物などもいくつも含まれており、ライブ会場移動のたびに出し入れと組み立てをみんなで協力して行わなければなりません。
その時は大変でしたがツアーが終わる頃には団結力が芽生え、終わってみたら楽しい思い出になりました。中で最も印象的だったのがHjorringという町のバーでのライブでした。このバーは古い船の中をイメージしたつくりになっており綺麗で印象的だった事もさることながら、そこでライブできた事自体がとても貴重な経験でした。たくさんの客が普通に酒を飲んでいるという慣れない環境の中、緊張しながら演奏をするも演奏が終わると温かい拍手や歓声で迎えてくれとても感動しました。
(もりや じゅんじ/ビネバル出版スタッフ)