フィンランド語探偵ハンナ 第13回

Päivää(パイヴァー)!こんにちは!

6月といえば日本は梅雨でうっとうしい季節だけど、フィンランドでは夏のベストシーズン。気温もそんなに高くないし、何よりカラッとした晴天が続いて最高!一大イベントの夏至祭も行われるわ。フィンランド語で6月はkesäkuu(ケサクー)って言うんだけど、直訳すると「夏の月」という意味。ぴったりな名前よね。

さて、今日もフィンランド語の謎を解明しなくちゃ。ハンナならどんな難題も解決できるんだから!

13回目の依頼人は、フィンランド留学を希望するユミコさん。3回目の登場よ。

 

🔎Case #13:『可能な理由は人それぞれ』

ハンナ:こんにちは、ユミコさん。お久しぶりね!元気だった?

ユミコ:はい、本当にお久しぶりです。それであの、実は秋からフィンランド留学が決まったんです!

ハンナ:まあ、良かったわね!ヘルシンキへ行くの?

ユミコ:ええ、アールト大学*1へ行きます。1年間、北欧デザインを本場で学べるなんて夢のようです。

ハンナ:おめでとう。留学でたくさんのことを学んできてね。それで、今日はどういうご依頼かしら?

ユミコ:フィンランド語を勉強し始めて1年以上経ちましたが、まだわからないことだらけで。この前、自分でリスニング問題を解いていて、Osaan uida.(オサーン ウイダ)という文が出てきました。これって「私は泳げる」という意味ですよね?

ハンナ:そうよ。osaan(オサーン)が「私はできる」という意味の動詞、原形はosata(オサタ)ね。

ユミコ:はい。そこで疑問がわきました。参考書には「できる」という意味の動詞としてvoida(ヴォイダ)も書かれています。osataよりvoidaが先に出てきたので、「できる」という可能の意味を表す動詞はvoidaしかないかと思っていたんですが……。

ハンナ:osataも「できる」という意味だと知って不思議に思ったのね?

ユミコ:そうなんです!Osaan uida.(オサーン ウイダ)も「私は泳げる」、Voin uida.(ヴォイン ウイダ)も「私は泳げる」。2つの動詞、osataとvoidaの違いを調べてみましたが、うまく探せなくて。どうして同じ「できる」なのに2つの動詞があるのか。ハンナさん、この謎が解けますか?

ハンナ:トタ、トタ*2……。わかったわ!

わかったわ!

謎を解くカギは「可能な理由」よ!

ユミコ:理由?どういうことでしょうか?

ハンナ:ユミコさん、確かにosataもvoidaも訳せば「できる」という意味なんだけど、osataは「できる能力がある」voidaは「できる状況である」という意味が根底にあるの。さっきユミコさんが言ってくれた文とその詳しい訳を書いてみると……。

(1)Osaan uida.(オサーン ウイダ)「私は泳ぐ能力がある」

(2)Voin uida.(ヴォイン ウイダ)「私は(水着を用意しているなど)泳げる状況にある」

ユミコ:そうか、なるほど!「泳げる」と言っても、能力によって可能か、状況によって可能か、理由が違うってことか!

ハンナ:その通り!専門用語でも「能力可能」と「状況可能」って言うのよ。日本語は(1)と(2)みたいにできる理由が違っても「泳げる」って言えてしまうけど、フィンランド語では動詞の使い分けが生じるということ。

ユミコ:へー、答えを知れば納得できるけど……とっさに「可能な理由」で動詞を使い分けるのって難しいですね。

ハンナ:学習者にとってはそうよね。でも、現地で毎日フィンランド語を話したり聞いたりしているうちに、絶対にスラスラ言えるようになるわよ!

ユミコ:そうだといいな。大学の授業は英語が多いですけど、生活の中でフィンランド語の能力を高めていきたいです。

ハンナ:帰ってきたら私がびっくりするぐらい上達しているように、頑張ってきてね!

ユミコ:はい!ハンナさん、ありがとうございました!

謎は解決!次はどんな依頼が舞い込んでくるかしら?

次回もお楽しみに!

 

*1 アールト大学:ヘルシンキ工科大学、ヘルシンキ経済大学、ヘルシンキ美術大学が合併し、2010年に開学した大学

*2 トタ(tota):日本語の「えーっと」に当たる語tuota(トゥオタ)のくだけた発音

 

 

 

 

 

フィンランド語探偵ハンナ 第12回

Päivää(パイヴァー)!こんにちは!

フィンランドの民族楽器「カンテレ」って知ってるかしら?見た目はお琴みたいで、指で弦をはじいて演奏するの。実は私も趣味で時々弾いてるわ。ハープとオルゴールを足して2で割ったような癒しの音よ。気になる人はぜひ調べてみてね。

さて、今日もフィンランド語の謎を解明しなくちゃ。ハンナならどんな難題も解決できるんだから!

12回目の依頼人は、会社員のケンタさん。半年ぶりの登場よ。

 

 

 

🔎Case #12:『二者択一のすれ違い』

ケンタ:こんにちは。すっかりご無沙汰していました。

ハンナ:こんにちは、お久しぶり!フィンランド語はもうかなりできるんじゃない?だからここに来る必要がなくなったのだと思っていたけど。

ケンタ:いえいえ。仕事が忙しくてのんびりペースの学習なので、なかなか……。あ、でも実は昨年のフィンランド旅行で、フィンランド人と友達になれました!僕が現地でお世話になった日本人の方の知り合いで、日本のアニメが好きな女の子なんです。

ハンナ:まあ、いいじゃない!その子も日本に来ることがあるの?

ケンタ:そうなんです、先週遊びに来てくれました。その時の会話で、何だかおかしなことがあって……。

ハンナ:それで来たのね。どんなことがあったの?

ケンタ:はい、ここに会話をメモしたので見てください。マイヤというのが友人です。レストランで飲み物を注文しようと思って、コーヒーと紅茶どっちにするか聞いたつもりなんですが……。

ケンタ:最初僕が「コーヒーと紅茶どっちを飲む?」と聞いたのに、マイヤは「ええ、もちろん」とだけ答えました。僕の言ってることが通じなかったのかなと思ってもう一度聞くと、気がついたような感じで謝られたのですが、これってどういうことなんでしょうか?

ハンナ:確かに、どっちを飲むか聞いてるのに、おかしい答えだけど・・・ケンタさん、この会話は正確にメモできているかしら?

ケンタ:かなり自信があります。後でモヤモヤしたのもあり、よく覚えていますから。マイヤはボーっとしていたんでしょうか?そんな風には見えなかったんだけどな・・・ハンナさん、この謎が解けますか?

ハンナ:トタ、トタ*1・・・わかったわ!

謎を解くカギは「“または”の違い」よ!

ケンタ:はい・・・?どういうことですか?

ハンナ:ケンタさん、あなたのメモをよく見て。あなたは最初“Juotko kahvia tai teetä?”と言ったんでしょう?この“tai”(タイ)がすれ違いの始まりだったのよ。

ケンタ:え?でも、“tai”というのは英語の“or”と同じ意味、つまり「または」っていう意味でしょう?

ハンナ:そう、だからこそケンタさんは英語の“or”と同じように“tai”を使ったのよね。英語なら“A or B ?”みたいに、どちらかを選ばせる二者択一の質問も“or”を使って言えるから。でも、フィンランド語には2種類の「または」があるの。

ケンタ:2種類?!

ハンナ:メモの最初のように“Juotko kahvia tai teetä?”と言うと、「コーヒーや紅茶を飲む?」という意味で、二者択一の質問としては普通使わないの。「コーヒーと紅茶どっちを飲む?」って聞きたいなら“Juotko kahvia vai teetä?”と言うわ。“vai”(ヴァイ)は二者択一の質問に使うのが普通よ。

ケンタ:ええと、じゃあメモを読み返すと・・・そうか!マイヤは僕が「コーヒーか紅茶でも飲む?」と聞いただけだと思って「ええ、もちろん」としか答えなかったんだ!

ハンナ:そう!そして、ケンタさんが質問を繰り返したので、その様子から“tai”と“vai”を混同していると気づいたのね。

ケンタ:うーん、それにしても「ごめんなさい、コーヒーを飲むわ」って謝ることはないのに。その場で間違いを指摘してくれたら、後で悩む必要もなかったんだけど。

ハンナ:何言ってるの。そう答えたのは彼女の優しさよ。私だったらすかさず指摘するけどね。でも、そんなんじゃ甘いムードが壊れてしまうと思わない?

ケンタ:へ?あ、えーと、それは、どう・・・かなぁ。と、とにかく、謎が解けて気分が晴れました!ハンナさん、ありがとうございました!

謎は解決!次はどんな依頼が舞い込んでくるかしら?

次回もお楽しみに!

 

*1 トタ(tota):日本語の「えーっと」に当たる語tuota(トゥオタ)のくだけた発音