フィンランド語探偵ハンナ 第19回
Päivää(パイヴァー)!こんにちは!
フィンランドの冬は、雪が降るのはもちろん、日照時間も日本よりはるかに短いし、気温が氷点下という日も珍しくないの。ちなみにフィンランドでの歴代最低気温は1999年、ラップランドのKittilä(キッティラ)で記録された-51.5℃よ。歴代最高気温は、南東地域のLiperi(リペリ)で2010年に記録された37.2℃。その差は88.7℃もあるの!
さて、今日もフィンランド語の謎を解明しなくちゃ。ハンナならどんな難題も解決できるんだから!
🔎Case #19:『求めるものは奪うもの』
ハンナ:こんにちは、お久しぶりです。お元気でしたか?
ミチヨ:ええ。フィンランド語を始めてもう2年近くになるかしら。お隣のパイヴィさんとフィンランド語で会話できることがだいぶ増えました。
ハンナ:それは楽しいですね。今日はどのようなご依頼ですか?
ミチヨ:先日、パイヴィさんとおしゃべりしていた時のことなんですけど、パイヴィさんが「コーヒーメーカーを買いたいけれど、近所のお店にあるかしら」と言ったんです。そのお店はキッチン用品を扱っているけれど、少し規模が小さいところだから。幸い私はお店の電話番号を知っていたので、その時に電話してあげようとしたんです。「私が店員さんに聞いてみるわ」と言うつもりで、Kysyn myyjälle.(キュシュン ミューヤッレ)とフィンランド語で言いました。
するとパイヴィさんは、Minä kysyn xxx.(ミナ キュシュン xxx)のように言って、多分「私が聞いてみるわ」と答えたのでしょうけど、最後の単語、myyjä(ミューヤ)「店員」につく語尾が違ったように聞こえたんです。私が言ったmyyjälleの-lleは「~に、へ」という意味があって、例えばプレゼントを「パイヴィに」あげるという意味で“Päiville”(パイヴィッレ)と言いますよね。それを応用したつもりだったのですが、なぜパイヴィさんは別の語尾を使ったのでしょう?それとも私の聞き間違いかしら?ハンナさん、この謎が解けますか?
ハンナ:トタ、トタ*1・・・わかったわ!
謎を解くカギは「動詞kysyäが求める語尾」よ!
ミチヨ:え?求める語尾?
ハンナ:結論から言うと、パイヴィさんはMinä kysyn myyjältä.(ミナ キュシュン ミューヤルタ)と言ったのではないでしょうか?
日本語だと「店員に質問する」と言うのが普通ですが、フィンランド語の動詞kysyä(キュシュア)「質問する」は、-lta / -ltäという語尾を求めるんです。求めるというのは、「ある動詞と必ずセットで使われる語尾」という意味で言っています。-lta / -ltäは「~から」という意味で、先ほど言った文を直訳すると「私が店員から質問する」となります。ちょっとおかしいですが、これは日本語だから。フィンランド語ではこのように言うんです。
ミチヨ:あら、そうだったのね!確かに、日本語で考えると「店員から質問する」だなんて、逆の意味に捉えてしまいそう。
ハンナ:「答えを誰かから引き出す」と考えてはいかがでしょう?フィンランド語はそういう発想なんですよね。ちなみにこの-lta / -ltäという語尾は文法用語で「奪(だっ)格(かく)」と言います*2。「kysyäが求める語尾は奪格」、「求めるものは奪うもの」というわけです。
ミチヨ:ふふふ、何だか言葉遊びみたい。フィンランド語と日本語の発想の違いを見つけるのも面白いかも知れませんね。これからも楽しく勉強していきます。ハンナさん、ありがとうございました!
謎は解決!次はどんな依頼が舞い込んでくるかしら?次回もお楽しみに!
*1 トタ(tota):日本語の「えーっと」に当たる語tuota(トゥオタ)のくだけた発音
*2 「離格(りかく)」と呼ぶこともあります
フィンランド語探偵ハンナ 第18回
Päivää(パイヴァー)!こんにちは!
クリスマスの前に、アドベントカレンダーを買って楽しむ人もいるんじゃないかしら。フィンランドにももちろんあるわ。毎日、1つずつ窓を開けてお菓子や小さいお人形を取り出すのって、大人でもワクワクするわよね。1日1つなんて待ちきれない!って気持ちにもなったり。今年はお友達からムーミンのアドベントカレンダーをいただいて、とっても嬉しかったわ!
さて、今日もフィンランド語の謎を解明しなくちゃ。ハンナならどんな難題も解決できるんだから!
さて、18回目の依頼人は、会社員のケンタさん。何やら様子がおかしいわね……。
🔎Case #18:『比べてみると』
ケンタ:こんにちは、お久しぶりです……。
ハンナ:こんにちは!今日はどういうご依頼かしら?あら、何だか元気がなさそうだけど、どうかしたの?
ケンタ:ええ…先日ここで話した、友人のマイヤ、覚えてますか?実は、あの後しばらくして僕たちは付き合うことになりました。彼女は日本に住みたがっているので、いずれは結婚できたらなぁとか、思っていて・・・。
ハンナ:ええ~、そうだったの!!良かったじゃない!
ケンタ:はい、そうなんですけど、最近ちょっとしたことでケンカしちゃって…フィンランド語の言い回しの問題かと思うので、今日はそのことを相談するために伺いました。
ハンナ:だから元気がないのね。どういうこと?
ケンタ:フィンランドにいるマイヤとビデオチャットをしていた時のことです。僕たちの共通の友人の話をしていて、僕は何も考えずに、その友人のことを美人だと言いました。そうしたら、マイヤは「私よりも?」と少し機嫌を悪くしてしまったんです。
僕はフォローしようと、覚えたてのフィンランド語で「僕は今、一番美しい女性としゃべっているよ」と言いました。するとマイヤは「比べられても嬉しくないわ!」と怒って早々にチャットを終わらせてしまいました。それから今日まで数日間、彼女から連絡がないんです。がんばってキザなことを言ってみたのに、マイヤはなぜ怒ってしまったのか、何だか腑に落ちなくて。
ハンナ:なるほど。ねえ、ケンタさんが言ったキザなセリフをここに書いてみてくれない?
ケンタ:はい…これです。
Nyt juttelen kauniimman naisen kanssa.
今 私はしゃべる 最も美しい(?) 女性と 一緒に
(ニュット ユッテレン カウニーンマン ナイセン カンッサ)
「僕は今、一番美しい女性としゃべっているよ」(?)
ケンタ:最近、比較級と最上級の勉強をしているので、使ってみようと思って。「美しい」という意味の形容詞kaunis(カウニス)の最上級、「一番美しい」はkauniimman(カウニーンマン)じゃないんでしょうか?ハンナさん、この謎が解けますか?
ハンナ:トタ、トタ*1・・・わかったわ!
謎を解くカギは「比較級と最上級の微妙な違い」よ!
ケンタ:え?どういうことですか?
ハンナ:ケンタさん、あなたはkauniimman(カウニーンマン)と言ったのよね?これはkaunis「美しい」の比較級、つまり「より美しい」という意味よ。最上級の「一番美しい」はkauneimman(カウネインマン)なのよ*2。
ケンタ:えっ、あ、ああ~!スペルが微妙に違う!
ハンナ:そう。比較級と最上級は、場合によってはとても似た形をしているの。マイヤさんはケンタさんの言葉を「僕は今、(その友人より)美しい女性としゃべっているよ」と解釈して、「比べられても嬉しくない」と言ったんじゃないかしら。「○○より美しい」と「一番美しい」。ほんの少しの違いだけど、女心って複雑だからねー。
ケンタ:比較級と最上級がよく似ている、というのは何となく知っていたんですが、いざ使ってみると本当によく似ていますね。でも、これでマイヤが怒った理由がわかりました。ちゃんと説明すれば機嫌を直してくれるかな。
ハンナ:きっと大丈夫よ。今度からは気をつけてね。比較級と最上級のことだけじゃなくて、他の女の子を不用意にほめたりしないこと。
ケンタ:うーん、僕には色々な勉強が必要みたいですね・・・とにかく、これで仲直りできそうです!ハンナさん、ありがとうございました!
謎は解決!次はどんな依頼が舞い込んでくるかしら?次回もお楽しみに!
*1 トタ(tota):日本語の「えーっと」に当たる語tuota(トゥオタ)のくだけた発音
*2 形容詞は、修飾する名詞の役割によって形を変えます。この場合は単数属格形という形で現れています