フィンランド語探偵ハンナ 第1回
はじめまして!
私はフィンランド語探偵ハンナ。フィンランドと日本のハーフよ。フィンランド語はもちろん、日本語もこの通りペラペラ。いわゆるバイリンガルね。
フィンランド語って深い森みたいなもので、「世界一難しい言語」とか「悪魔の言語」なんて言われているの。私の仕事は、その深い森に迷い込んでしまった依頼人が持ち込む謎を解き明かすこと。
ハンナならどんな難題も解決できるんだから!
さて、記念すべき最初の依頼人は、フィンランドの大学へ留学を目指すユミコさんよ。
🔎Case #1:『同じ色なのに』
ハンナ:こんにちは。今日はどんなご依頼かしら?
ユミコ:私、フィンランド語を勉強中なんですけど、時々フィンランド人の友達と英語でチャットしているんです。そこでフィンランド語を教えてもらったり。
ハンナ:それはいいことね。ネイティブとの接触が多ければ上達も速いわ。
ユミコ:ええ。それでこの前、自分で作った文をチェックしてもらったら、こんな風に直されてしまって。これはその時のメッセージをプリントアウトしたものです。
ハンナ:赤い字がお友達の修正部分ね。
ユミコ:はい。on(オン)は英語のbe動詞みたいなもので、この文は“A is B”、「AはBだ」という文だっていうのはわかります。でも、おかしくないですか?同じ赤色なのに、トマトだとpunainenでトマトジュースだとpunaista。なぜ単語の形が違うんでしょう?その友達に聞いても「理由はわからない」ですって。
ハンナ:あらら。
ユミコ:間違いを指摘しておいて、理由がわからないなんて!今朝も、トマトとトマトジュースを前に考え込んでしまいました。ハンナさん、この謎が解けますか?
ハンナ:トタ、トタ*¹・・・わかったわ!
謎を解くカギは「トマトとトマトジュースの性質の違い」よ!
ユミコ:はい?
ハンナ:いい?ユミコさん。トマトは1つ、2つ・・・と数えられるものよね。
でもトマトジュースは液体だから、ビンやコップに入れない限り1つ、2つとは数えられないわ。
フィンランド語は、数えられるものと数えられないものの違いをはっきりさせる言語なの。
ユミコ:・・・それがどう関係するんですか?
ハンナ:「AはBだ」っていう文を作る時、Aが数えられるものじゃなかったら、Bはそれ専用の形*²になって現れるの。これは色に限ったことじゃなくて、こういう時も。
ハンナ:よ~く見てね。(3)の「おいしい」と(4)の「おいしい」は少しだけ違うでしょ?
ユミコ:あっほんとだ!じゃあこれも・・・
ハンナ:そう、(4)のhyvääは数えられないものを説明する時の形よ。
ユミコ:そういうことか!よくわかりました。ありがとうございます、ハンナさん。
ハンナ:どういたしまして。
ユミコ:でも、フィンランド人の友達はどうして「理由はわからない」と答えたのでしょう?
ハンナ:数えられるものと数えられないものの区別は難しいの。ネイティブでさえ、語学教師じゃなければきちんと説明できる人はなかなかいないと思うわ。
ユミコ:そうなんですね。さすがハンナさん!
謎は解決!次はどんな依頼人がくるかしら?
次回もお楽しみに!
*¹トタ(tota):日本語の「えーっと」に当たる語tuota(トゥオタ)のくだけた発音
*² 専門用語では分格形と言います。
(Written by Haruna, Illustration by HiяoKo )
デンマーク語の数と数え方
デンマーク語の数の数え方は、スウェーデン語、ノルウェー語と親戚関係にあるにもかかわらず、二つの言語の数詞に比べると、覚えるのに苦労します。50, 60, 70, 80, 90は覚えるのが難しい。とりわけ50、 70、 90は、なぜそんな複雑怪奇な言い方をするのかわからないので、混同します。しかし日常どうしても使う機会の多い単語です。どうやって覚えたらいいのでしょうか?以前、東海大学の福井信子先生にお尋ねしたら、以下のご説明いただいたことがあります。
「デンマーク語に特有なのは50から90までの十毎の数詞である.それらは20進法(20個は[デ語]snes,[ス語]tjog)に基いている.tresindstyve<60>とfirsindstyve<80>はそれぞれ3×20,4×20で,その他は20の半分という表現になっている.つまり,halvtredjeが2 1/2であって,halvtredsindstyve<50>は20×2 1/2,halvfjerdsinstyve<70>は20 x 3 1/2,halvfemsindstyve<90>は20 x 4 1/2である.
それに対しtredive<30>とfyrretyve<40>(ここからノルウェー語の別形tredveとforrが来ている)は,言語史的な理由からそれぞれ3 × 10,4 × 10と理解しなくてはならない.40から90までの基数詞はふつう短縮された形で用いられ,fyrre<40>,halvtreds<50>,tres<60>,halvfjerds<70>,firs<80>,halvfems<90>となる.
それに対し序数詞は(従って,分数の分母も)一般にもとの長い語形から作られ,fyrretyvende<40番目の>,halvtredsindstyvende<50番目の>,en halvtredsinstyvendedel<50分の1>のようになる.このようなことからデンマーク語の数の体系は複雑なものになっている.だがhalvtredsende(del)<50番目の(50分の1)>のような類推的な短い形を話しことばで聞くこともある.一の位の数は十の位の前に置かれ,enogfyrre<41>,seksoghalvfems<96>のようになる.
デンマーク語特有の数詞と並んで,ノルウェー語やスウェーデン語と同様に10進法に基いたもう一組の数詞もある:treti<30>,firti<40>,femti<50>,seksti<60>,syvti<70>,otti<80>,niti<90>.こちらの体系では十の位の数が一の位の前に置かれ,firtien<41>,nitiseks<96>のようになる.しかしこれらの「北欧的な数詞」をデンマーク人が使うのは,金額を文字でつづって書類(例えば小切手)に記入するときや,他の北欧人と口頭で意思伝達を行なうときに限られている.」(以上)
つまりデンマーク語の50~90を覚えるには、まず20進法だと言うことを頭に入れます。そして、例えば50(halvtrdes)ならば、20の固まりを3回足すのですが3番目の20の半分(10)を足した数(halvtreーを3番目は半分と無理矢理解する)、として覚えればいいのではないでしょうか。70も同様で、20を4回足して4番目の20を半分だけ足す、90も20を5回足して5番目の20を半分足す、と言うように覚えればいいのだと思います。ややこしいですね。
以下のサイトの「DANSK」のなかでもでもデンマーク語の数詞の説明をわかりやすく解説しています。ご参考ください。https://www.olestig.dk/index.html
*なぜ20進法を採用したのか?昔の北欧人がたくさんいる羊を数えるのに棒きれに20の刻みを入れて数えたのが始まりと聞いた事がありますが、うそかほんとうかはわかりません。